無力

4週間に渡って、ゲントにあるコンセルバトワールの演劇科でクラスを教えた。   教えたというより作品を一緒に創った。テーマは『Powerlesness 無力/無権力』である。3年生が3人と院生が1人、エラスムス交流生でフィンランドから来ている学生が1人だ。女性2人と男性3人である。このテーマは私の方から出した。戦争を知らない、大きな自然災害も知らない私達は、この『無力』とどう接しているか、どういう『無力/無権力』があるかを考えてみる事にした。

1) Me and you                                                                                                                     2) Me and society                                                                                                            3)Me and nature                                                                                                                 4) Me and love/death

どこからどう突っ込んだら良いのか分からないくらい大きなテーマなので、この4つの分類の仕方がキーワードになるかもしれないと思いヒントを与えた。      4週間の間、毎日日記を書かせ翌日読ませた。これは本番中も4週間分読ませた。質問を沢山書かせた。すべて暗記させた。『答えはいらない、質問を持ってこい』と伝えた。最初の2週間はテーマに関するアクションを考える事も宿題にした。    朝は私が日頃やっているパートナーワークやボディースキャニングも教えた。                                    彼らの日記を毎日聞く事、パートナーワークをする事でお互いの距離感が縮む。

ルースという二十歳の女学生が毎朝目を腫らして登校して来る。その子のお父さんは丁度1年前に森で自殺をしたらしく、今でも頻繁にその発見した時の情景を夢で見るらしい。しかし今回がその事件後初のちゃんとした公演参加だ。『お父さんを森で見つけた時、叫びたいのに泣きたいのに声が出なかったの。あの無力感を身体で現したい』そう私に言いに来た時は、とても驚いたが、彼女にとってこれをまず、なんらかの形で表現する事は、表現者を目指す者としても隠し続けてはいけないことなので彼女の意思を尊重させる。

ベルギー政府が色んな予算削減を発表し、このゲントに通った時期に4回ものストライキで交通機関が不通になった。日頃の政府への意見やEUの事、シリアの事、アメリカの事、学校の授業方針の事、気候の事など色んな事を皆んなで話す。お祖父さんがこのリハーサル中に安楽死を選んだ学生もいた。買ったばかりの自転車がパンクする、盗まれる…トラムで登校しようとしたらストライキだ。自分の不甲斐なさやBFの事GFの事、両親の事、家族の事、ペットの猫の事など話題は豊富であった。そしてそれらを日記という形で綴られた4週間はミクロコスモスであった。

20代前半というバイタリティーのある青年達と接して感じたことは、今悩んでいる囁かな事は、ある意味で無力にも繋がる。しかし自分がそれらにどう直面し、どう対応して行きたいかが分かる事は、社会や戦争に対しても無力/無権力だと諦めずに、自分のスタンスを持てるということが明らかであった。大切だと分かった。悲しい辛い内容もあったが、どこか未来を感じさせられる若い力である。

同じ時期に日本で衆議院議員選挙があった。発言の自由も大切だが、発言したいことをクリアに伝える訓練も大切だと思った。これは日頃から討論する習慣がないと養われない。社会についてどう思うか家庭や友達、学校というまずは身近な社会で討論するそういう環境がとても大切である。こんな大切な事、学校の授業を無視してクラスで話すべきである。そちらの方が受験より大切だ。どれだけの日本の学校が、14日の翌日、今回の選挙について各自に意見を述べさせているのだろうか。そして先生達は自分の意見を言えるのだろうか。無力感は自分で作る必要はない。

ベルギーの予算削減の中に文化芸術関係の予算削減も含まれている。モネ劇場でダンスが企画されないことが大きな話題になり、ローザスのモネ劇場との企画もなしということが大きく伝えられたが、これでローザスが破綻するわけではなく、ローザス以外に破綻するカンパニーや居場所がなくなるアーティストの方が多いのは、経済世界の仕組みと同じだ。

ストライキ中、仕方なく車でゲントまで通った私だが、夜、久し振りに高速道路を走り、あんなに自慢だったベルギーの高速道路の道路照明灯がインターチェンジだけしか灯っていない事に気付いた。日本は再稼動に向かっているが、エネルギー問題は補給だけではなく節電という考えもあるなぁ…と思いながら帰途した。

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